●シズカ族

 シズカは「静か」であり、「夜」の意味である。族外からは「魔朧族」「夜狼族」とも
呼ばれている。彼らが住む"郷"は木々、そして渓谷の多い山岳地帯であり、その鬱蒼とし
た雰囲気から「一日中夜しかない地」とも呼ばれている。彼らの敵対種族は同地域に住む
ミュータントであり、「アラシ」(荒らし、嵐)として呼び恐れられている。
(またこの事からこの地域の肉食昆虫型ミュータントを「アラシ種」と呼ぶ。)
 シズカ族は遥か北方の地に生息するオオカミの特性を持った亜人の種族であり、独自の
文化様式と格闘技術を確立した武闘家一族である。外部とは完全に隔絶された訳ではなく
、毛皮や山で取れる薬草を近隣の村街に売りに出る事もある。ただ、地理的都合から、郷
の者は通常、大抵の者は一生涯"郷"の中で共同生活をし、その一生を終える。

▼文化・風習▼
祖先を「祖神さま」(後述)として奉り、自然万物に対して畏敬するアニミズム的な文化を
もつ。"不自然"である事を嫌悪し、罪とし、村に定めた「掟」(後述)を破ったものには
追放という形で罰則が待っている。

「祖神さま」
 祖神マロウを始祖とし、以後連なる祖先たちを総称して祖神さまと呼ぶ。祖神さまは大
自然の至る所にある意志存在でもあり、死んだ者は祖神さまと一体になるという。
 火、家を作る木、衣服となる朝、雨、木の実、狩りの獲物などなど(ただし、ミュータ
ント、アラシ等は除く)それら自然に存在する物は祖神さまの恵みなのであり、常に畏敬
せねばならない。不作や不猟は祖神さまを疎かにしている証であり、その度に祖神を祭る
儀式を執り行う。祖神さまを祭る祠は"郷"の近く、最も高き場所ヤテン山の頂上にある。

「死生観」
 前述の通り死んだ者は祖神と等しくなるとされる。"不自然"たるミュータントは祖神に
なる事はできないが、死者は勿論、異邦人、"獲物"として狩った動物でさえも、祖神の一
部になると信じられている。ただし、アラシはこれに含まれない。彼らは祖神の教えに背
いた"悪霊の一族"である、というのがシズカの共通認識だからだ。
 特に天寿をまっとうとする事を最大の徳とし、事故・病災や闘いで死んだ場合において
も、「祖神さまに召された」「祖神さまに試された」として手厚く葬られる。反面、自殺
や自害を不自然とし、逆に悪徳の一つとしている。
 葬式は郷を上げてまるで祭りの様に盛大に執り行われ、故人の異体は火葬され、その灰
はヤテン山の頂上より撒かれる事で死者の魂は祖神の元に届くとされる。

「掟」
5条からなる、"郷"で生活する者の掟であり、祖神の時代から内容はあまり変わってない
と言う。
(以下、内容)
・敬虔たれ。老いきを敬い、これに従え。
・自然たれ。血を重んじ、定(さだめ)に従え。
・畏敬せよ。糧となるもの全てに敬意を表し、礼を尽くせ。
・慈愛せよ。たとい死すべき者にも、弱きには最大の情をもて。
・精進せよ。常日頃に己を磨き、威をもって応えよ。

掟に背き、大罪を犯したもの(同族への理由なき殺戒、盗み、悪意ある虚偽、弱者や死者
を玩ぶ事、禁じられた姦淫など)には原則、その罪の重軽を各家長や郷長たちで話し合っ
た後、種々の罰を与えられる。("追放"は最大の罰則の一つである。)
(追放する筈のシノにも部族の拳術を伝えたのは、4番目の理念から。たとえ追放となっ
た子供にも、独りで独立できる力を与えるのがシズカの温情なのだ。)

「婚礼など」
 一夫多妻を容認する形式を取り、家長の下にその息子を主人とした家族を置く事もある。
また、下記の様な集団婚礼の儀式でなくても、本人たちの同意と家長の許可があれば、個
人同士の結婚も可能である。
 "血"を重視する考え方からか、兄弟姉妹・親族、下手をすれば親子の婚礼も珍しい事で
はない。ただし、反面、異種族との混血や同性愛は"血を汚す行為"だとして忌避されてい
る。

・夫婦節
 年に一度、吉日とされる雨季明けの頃に、集団見合いと呼べる儀式が行われる。誰が始
めたか、『夫婦節』と呼ばれるこの儀式は、成人した男女が、所謂"鬼ごっこ"をする形で
行われ、まず、特定の色の布を右手首に巻いた郷の女たちが一斉に逃げたり、隠れたりす
る。成人の郷の男達は意中の相手の布と同じ色の布を左腕に巻いて彼女達を探す。同じ色
の布の女たちを見つけ出し、その両腕の布を結べば婚姻成立である。尚この時、男達は他
の男たちの妨害を行っても構わない。
 こういう習慣ができたのは、雨季過ぎになると、主に成人期の郷の男達が、一斉に一種
の春化状態になり、特に異性を意識する事になる。これはオオカミと人間の中間の特性を
もつ郷の女たちが発する生殖フェロモン(性周期同一フェロモン(人間の特徴)と性誘引フ
ェロモン(イヌ科の特徴))の関係という説が最も有力とされている。ただし、なまじ人間
なみに自制が効く為、一部の男児は悶々とした夜を過ごす事となる(笑)。

▼地理▼
「郷」
 郷は周囲を険しい山岳に囲まれ、同時にそこは獰猛かつ巨大な肉食昆虫ミュータント「
アラシ種」の巣の近くでもある。前述の通り木々の多い場所であり、どんなに外部の街や
世界の科学や魔法学が発展し、文明化しても、ほぼ"永久に"変わる事のなさそうな秘境一
つである。その中にシズカ族は生活している。
 8家族60名程が共同生活を行っており、彼らは最も歳をとった者(主に男性)を「郷長
(さとおさ)」としている。そして、原則、男女を問わず自分より高齢の者を敬う社会形
式を取っている。
 また、オオカミの習性か、雄性社会的であり、家の中では「家長」である夫や父親が最
も権力があるとされ、儀式や政は、郷長を中心とした各家長が執り行う形式となっている。
しかしシズカの郷では、どこの家でも女性の方が活気に満ち溢れている所を見ると、そう
いうのは人間・亜人共通である事がよく覗える。

「ヤテン山」
 「郷」のすぐ北に位置する、そう高くない山。祖神が獣の力を授かった場所とされ、シ
ズカの者たちの聖地となっている。また、中腹には古代の遺跡と思しき建造物がいくらか
存在する。

「アラシ(種)」
 全長2メーター〜7メーター余り。不完全変態、節足動物型。厳密には、ムカデに似た
姿の肉食昆虫型ミュータント。個体数は決して多くはないが、その顎力は岩を砕き、その
甲羅は一切の刃物を通さないとされる。さらに上位の天敵が存在するとされるが定かでは
ない。
 動作は俊敏だが、堅牢な背甲や硬く肉厚な筋肉と打って変わり、関節部や腹部下は脆く
、弱点でもある。また熱や火を避けたり、マツヤニの匂いなどを嫌う性質が確認されてい
る。肉食であり、シカや野犬などの動物は勿論、通りすがりの旅人やシズカの者たちを捕
食する。

▼生活様式▼
「衣」
 獣の皮で作った貫頭衣や、着物(というより作務衣)に近い装束、ただし、気候と(毛深い
者の多い)体質の為か、胸元や肩などを大きく露出させた格好が目立つ。森の木の革や毛皮
を繋いだものを主として着る。(全体的に和服に近い装いである)
 女性の服装はデザインや模様も素朴ながら色彩豊かなものが多いが、一方男性は青や紺・
黒など、地味な色合いの衣を着る反面、油着けにした樫の首飾りや、なめした革のレザーア
ーマー、石を繋いだアクセサリーなどの小物類を好んで着ける傾向にある。脚は男女とも、
麻布を撒いたりしただけで済ませる。
 衣類を着ているのは、むしろ"武装"や"たしなみ"の様な感覚が強く、外部の村街に出て
も馴染める様に、との事である。また、衣類は必要最低限の、対アラシ用の"防具"という
意味合いもある。郷の中では下着一丁や下手をすれば全裸という者も珍しくない。勿論、
郷の中に限ってである。裸という状態に対する羞恥の感覚も、外の世界とは多少のズレ
がある。とはいえ、彼らも、郷の外と交易がある以上、郷の外の常識を知らないわけじゃ
ない。それでも半分は獣である故に、本来ならば衣類は彼らにとって無用な長物であり、
特に動きづらい格好や重装甲の鎧などは嫌悪される傾向にあるようだ。

「食」
 狩猟・採取による原始的な生活が主である。季節によって取れる木の実や、獣肉が主体
であり、"生が駄目だな、焼いてみな"という言葉通り、煮る・焼くなどの調理法も存在する。
 外の村街のパンをヒントにした、"プンフ"は山芋から作ったトルティーヤのようなもので
主食と言うだけでなく狩りの時の保存食でもある。また、木の実酒や密酒などの酒類も豊富
に存在する。

「住」
 木造建築で竪穴を土台とし、大黒柱と複数の柱でこしらえた家に住み、屋根にはなめした
り、油やマツヤニ着けにした動物の皮がかけられる。これは雨露は勿論、郷からアラシを避
けるためである。
 家の中に部屋は一つしかないが、広めに作っており、家族が囲炉裏を囲んで団欒したり、
体を寄せ合って床に互いに寄り添いながら寝る。

「言語」
 外の世界との流通以前から、何故か郷のものの話し言葉・読み書き言葉は(多少の齟齬、
スラングの差はあっても)外界と同じであった。これは、マロウたちシズカの者が外の世
界の人間たちと起源を同じとする証拠ではないか?ともされている。今は以前と比べ、外
の街との交易も盛んとなったせいか、郷の者の殆ど皆が共用語に近い言語を使っている。

▼魔朧拳▼
 村の子供達が「狩り」の手段として物心つく頃から教わる獣人武術。シズカの郷では老
若男女を問わず、親や大人達から、「生きる為の手段」として教わり、1人前の大人にな
るまでは、日々この鍛錬が跳躍や疾走、突進による獲物との"間合い"を取りながら、全身
の筋肉を駆使して確実に相手の肉体を"破壊する"為の格闘方法である。
 また、ときに目潰しや急所狙い、首筋へのかみつきなど、「肉体を駆使して確実に相手
を屠る」事を重視している為、格闘技というには余りにも荒荒しい武術である。
 古のマロウの代から伝えられ、「魔を朧(おぼろ)に宿す拳」として、原則無手で行うも
のとして伝えられてきた。というのも、マロウの曰く「人狼の肉体は人間の様に考えなが
ら、獣のように獲物を仕留めることに向いている」「武器や鎧の類はかえって人狼の肉体
にとって邪魔となる」。
 その為、魔朧拳では、無手での闘いを遵守し、武器に頼った闘い方を恥としている。練
達の使い手になれば、素手でリボルバーの銃弾を弾き、鍛えぬかれた筋肉その皮一枚で刃
を止める事も可能だとされる。

▼郷に伝わる格言▼
・『生が駄目なら、焼いてみな』
自然に存在するあらゆる物の姿は決して一側面でない。だから場合によっては工夫してみ
る事だ、という教え。ココガシの実は生では渋く苦い実だが、煮焼きする事でやわらかな
甘味のある実となる。

・『毒ほど彩なり』
毒のある草花や木々は色の綺麗な果実や実をつける事が多い。だから惑わされるな。主に
人から聞いた事を簡単には鵜呑みにするな、という意味。自然の中での生活もこれと同じ
で、目で見たもの聞いたもの、聞えたものは、頭を使って考えなければ何も真実は見えて
こないのだ。

・『千の拳(けん)は十の剣(けん)に勝れり』
魔朧拳に伝わる格言の一つ、意味の解釈は次のように判れる。
@経験を重ねた末の努力は、同数では叶わない筈のより大きな脅威にも勝る。
A戦は物量である。勝利を願うならば、まず仲間を集める事だ。
B人間には人間の戦い方があるように、獣人には獣人の戦い方がある
(=魔朧拳そのものの正当性の証明)

▽最後に▽
これらの設定は、所謂『裏設定』です。
セッションやシナリオ等で全面に出す必要はありません。
あくまでキャラの背景設定を明確とする為に書きました。
急ごしらえの設定なので稚拙な部分もあるでしょうし、「ここはこうしたらどうか」という意見や
「これは矛盾してないか?」というツッコミ等があれば是非とも教えてください。
あと、拾って利用したり、料理するなりはご自由にお願いいたします。
特に『シズカ族でPCを作りたい!!』などという奇特な方がおられましたら、じゃんじゃん作ってください!!(居るのか?;苦笑)